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文明の生態史観

 今回取り上げるのは梅棹忠夫さんの「文明の生態史観」です。

 

文明の生態史観 (中公文庫)

文明の生態史観 (中公文庫)

  • 作者:梅棹 忠夫
  • 発売日: 1998/01/18
  • メディア: 文庫
 

 

良い点

(1)自然科学的に地理・環境を観察している

 

「生態史のような見方を持ち込んだことに意義がある。」とディスカッションの中で指摘があったが、自然科学的な観察によって仮説を作ったことに意義がある。

世界全体の歴史の流れをつかむ場合、政治・経済の論理を使うことが多いのではないかと思う。(例:ウォーラーステイン?)。経済学の論理を使って因果関係を考えるのではなく、観察から浮き上がってきたパターンを仮説としているため、斬新な仮説になっている。

(2)世界全体を対象としている

細かい歴史に立ち入らず、全体の理論を示している。各地域・時代に専門分化された学者が世界全体を対象にした学説を出せないのに比べて、正確さは犠牲にされるが読んでいて視野が広がる。

(3)経済活動以外の観点を含んでいる

経済的な統計が論文の中に現れず、現地の人々の生活・宗教・文化から世界を捉えようとしている点。これによりGDPの大小を比較することで、文明の発達度を測るといった単純な議論を行わずに済んでいる。

 

批判すべき点

(1)分析対象の期間が文明の歴史に比べて短い

明治維新以後の歴史を重視して第一地域と第二地域を分けている。

しかし、もっと長期間の歴史を対象にした場合、アラブ地域や中国では、商業が発達し都市文明が形成され、学問・科学が発達していた時期があった。

 

ヨーロッパ文明と日本文明を同じグループとして対等に位置づけてしまったのは、執筆当時の各国の経済の発達状況に左右されてしまったからではないか。

 

(2)文明の発展への伝達の影響を軽視している

地理的条件が同じで環境との相互作用が似た地域は似たような発展を遂げるとしている。

しかし、私は、知識の伝達によって地理的条件の影響を超え文明は急速に発展すると考える。

たとえば、日本の近代化は欧米への留学生の派遣、外国人技師の招聘により獲得した知識を全国に伝播させたことが大きい。また、熱帯の気候にあるシンガポールもイギリスによる近代的な教育が行われ、近代的な商業社会が生まれている。