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哲学入門

  • 哲学の学習について

 

大学の一般教養課程で論理学や現代哲学の教科書を読んだり、趣味で哲学関連の新書を読んだりしていたため、哲学関連のひととおりの知識を持っているつもりでした。

 

しかし、この本で、ある哲学的問題に対して過去の言説を引き合いにだしつつ、自分の言説を展開しているのを読んで、過去の哲学者の思考を理解することが哲学ではなくて、自分の疑問に思ったことを過去や他の哲学者の言っていることを参考に考えることが哲学だとわかりました。(考えがあっているか、間違っているかは別として。)

 

哲学以外の本を読む場合も、「なるほど!そういう考え方もあるのか!」「この考えは素晴らしい!」「これは知らなかった!世の中こんなこともあるのか!」とか言って感心しているだけだと、単に知識が増えるだけで自分自身の思考はあまり深まらず、自分自身も変化しないのではないかと思います。(著者の物まねができるかもしれませんが。)

 

欧米の教育は自分で興味の持ったことを自分で調べ考えさせる教育だが、日本の教育は過去の知識を詰め込んで理解させる教育だとよく言われますが(会の議論の中でもそうした話が出てきていたような気がします)、哲学の入門書にその傾向が表れているのではないかと思います。

 

大前研一さんの本(「考える技術」等)を読んでいると、「1冊本を読んだら数時間は考えろ」「ハーバードビジネスレビューは著者と格闘するつもりで読め」という記述が出てきますが、今までは何で何時間も考えないといけないのか理解できず、どうやればいいかもわからなかったのですが、著者と同じ問題について、自分だったらどう考えるかを何時間もかけて徹底的に考えろということだと自分なりにわかった気がします。

(今までは、感想として自分なりの考えは持つことはもちろんあるのですが、どちらかというと知識を得ること/著者の言うこと理解することを重要視して本を読んでいました。)

 

ビジネスでも単に情報を集めても、独自のものを思いつかず、他社でやってうまくやっていることの物まねや他社でやっていることの組み合わせしかアイデアが思いつかなかったのですが、普段から自分で考える癖をつけておくと、独自性のあるアイデアが出せるのではないかと思います。

 

  • 本の感想

(2)-1 目次

第1章~第11章が存在・認識、第12章~第14章が論理・真理、第15章が哲学について

という構成になっている。第1章~第11章が長く、読んでいても冗長に感じた。第1章~第11章はもっと短くしたほうがいいのではないかと思う。

 

(2)-2 認識論・存在論

知識を細かく区分して、それぞれについて真理と言えるか考察しているが、認知科学の視点がない状態での議論は古臭く、あまり意味がないように思える。

たとえば、P120で「それゆえ類似性という関係は、正真正銘、普遍でなければならないのである」と言っている。しかし、人類がどのように類似性/動き/時間の流れ/因果関係を認識しているかを解明する方が生産的ではないかと思う。

また、P63で「私たちは、感覚するときには外的感覚のデータと、内観するときには「内的感覚の対象」と言えるデータ-思考、感情、欲求-を面識し、また記憶しているときには、かつて外的感覚か内的感覚のデータであったものを面識している」と書いているが、これは脳の働きの知識なしで議論しても「真理」に近づかない。

 

(2)-3論理・真理について

ラッセルはP171「しかしそれらが一群の蓋然的な見解の秩序を整え、整合性をもたらすことに鑑みれば、それらはほとんど確実になる。」)と書いているが、なぜ、「秩序を整え、整合性をもたらす」と、「ほとんど確実になる」と言えるのかがわからない。(「確実と見なした方が世の中として都合がいい」というのであればわかる。)

また、認知の関連の章で、P67「カントが正しいなら、明日にでも二たす二を五にするように私たちの本性が変わるかもしれない」P68「二つの物的対象を別の二つの物的対象に足せば四になるのは間違いがない」と言っているが、脳の認知の仕方が変われば世界の認知の仕方が変わり、二足す二が五になるように世界が見える可能性もある。(論理法則が脳で生み出され、世界が論理法則に従うように認識されているか可能性も否定できない。)

その意味でカントがP106で「現象は知覚者と物自体の共同の産物だから、知覚者に由来する特性を確かに持ち、それゆえ確かにアプリオリな知識と一致する」と書いているのは、認知科学を踏まえた(と思っている)私の意見と一致する。

 

(2)-4哲学について

 P190で「私たちの思考を広げ、習慣の抑圧から解き放つ」というのが哲学の効用とラッセルが言っている。今まで「哲学は何の役にも立たない」と思っていたが、確かにニーチェキリスト教批判など世の中に影響を与えた影響も大きいと思った。

以上